はりねずみ教

難しいことを分かりやすく!

中東の3極(ハマスとイスラエルの衝突を例に)

ハマスイスラエルにミサイルを撃ち込んでから数週間

 

前に外交官の岡本行夫が言ってた話を思い出したので書こうと思う

 

論旨は、

・中東は3極で考えると理解しやすい

・3極とは、①ユダヤイスラエル、②イスラム(アラブ系)、③イスラム(ペルシャ系)のこと。代表的な国は②がサウジアラビアやエジプト。③はイラン(というか③はイランだけ)

・特に②と③が混ざりやすいので要注意

というもの

 

事の経緯

 

数週間前にハマスイスラエルにミサイルを撃ち込んでから、圧倒的に軍事力で勝るイスラエルの反撃が続いている

 

ハマスによる攻撃の数日前には米国のサリバン大統領補佐官が「中東はここ20年余りで最も静かだ」と調子に乗っていましたが、この発言はいかに米国やイスラエルが、ハマスによる攻撃の兆候を掴めていなかったかを理解する材料に、今ではなっている

 

そもそもなぜ今攻撃したのか

 

なぜ「静か」だった中東で、突如として戦争が始まってしまったのか

 

いやむしろ、「静か」だったからこそ、ハマスは攻撃を仕掛けたと言った方が良い

 

どういうことか

 

中東が「静か」だったのは、かつて仲が悪かった①イスラエルと②イスラム世界の間で、経済協力を念頭に国交正常化が進んでいたから

 

イスラエルはそうすることでイスラム世界に近づき、結果的には聖地エルサレムの奪い合いの問題をソフトランディングしようとしていたはず

 

それは②アラブ系イスラム諸国も同じだったはず

 

でも、ずっと後ろ盾として、一緒に①イスラエルと戦ってくれていた②イスラム系が、自分たちを差し置いて①と仲良くし始めたのだから、ハマスからしたら面白いはずがない

 

だから、ハマスのミサイル攻撃は、「お前ら俺たちパレスチナを置いてきぼりにして、何勝手に仲良くし始めてんねん」という怒りの噴出だったと捉えるのが正しいだろう

 

イスラム系の2極

 

さて、ではこの問題のケースで、②アラブ系イスラム諸国家と③ペルシャイスラム諸国家の動きにはどのような違いがあったのか

 

まず②アラブ系イスラム諸国家は、まさに①イスラエルと国交正常化を進めようとしていた人たち。でも戦争が始まったらイスラエルを非難し、ハマスの指示を表明した人たち

そしてもう一つ付け加えると、ハマス等の過激派を支援は(恐らく)していない人たち

 

一方で③ペルシャイスラムは、そもそも①イスラエルと仲良くしようとしていないし、裏でハマス等の過激派を支援している人たち。そして、今回の戦争への参加が(可能性ありなので)恐れられている人たち。(だから米国は地中海に空母を派遣している!)

 

日本人からすると、アラブ系もペルシャ系も、どちらもイスラムなので違いが分かりにくいですが、言語も違えば(アラビア語ペルシャ語。似てますが違う言語)、歩んできた文化も違う(アラブはオスマンペルシャはその名の通りかつてのペルシャ帝国等)

 

ペルシャといえば紀元前にマケドニア人のアレクサンドロスペルシャのダレイオスが戦っていたので、随分と古い敵(だから西洋はイランを毛嫌いしているのかも)

 

今回の戦争も、この3極に分かれている事を理解した上で見ると、今後の動きも予想しやすいでしょう

 

 

 

 

 

 

 

感染症とアレルギー疾患について

私の家族(妻と子供と自分の3人)はこの年末年始、というか子供が生まれてから何度も体調を崩しているので、ここらで体調不良と言っても色々あることを整理したいと思います。薬の飲み方とか間違えると大変なので。

 

病気系の体調不良の種類

まず、いわゆる病気扱いされる「体調不良」の分類です。ちょっとお腹が痛い、睡眠不足等の軽いものや、がんなどの重いものは除きます。

ざっくり分けると①感染症と②アレルギー性疾患の2種類です。

 

感染症

①ー1:細菌感染

概要:細菌の感染による風邪。一般的には、咳が出るだけ、鼻水・鼻づまりだけ等、特定の症状だけが出ることが多い

効く薬:抗生剤が効く

そもそも細菌とは…ものすごく小さい生き物だと思えばOK。自分自身の設計図(DNAやRNA)を持っていて、かつタンパク質を作る工場も自分の体の中に持っているので、自分で自分を作れる=増殖できる

①ー2:ウィルス感染

概要:ウィルスの感染による風邪。コロナウィルスとか。咳や鼻水、くしゃみ、関節痛、発熱など、様々な症状がいっぺんに出るケースが多い。ほとんどの風邪はこちらのウィルス感染によるもの

効く薬:無し。抗生剤は効かない。なぜならウィルスは生きものではないから。カロナール等の風邪薬は発熱やだるさなど表面上の症状を抑えてくれるだけで、別にウィルスをやっつけてくれるわけではない。ではなぜ治るかというと、免疫で治っているだけ。(インフルエンザなどよく流行るウィルスには効く薬もありますが、タミフル等の例外を除いて一般の病院ではほとんど使われていない&処方されない)

そもそもウィルスとは…DNAやRNAなどいわゆる生きものの設計図の欠片。だたの欠片がふわふわ浮いているだけ。タンパク質を作る工場などもちろん持っていない。ではどうやって自分自身の複製を増やしていくかと言うと、人間などに感染して、人間の中にある工場を使って、自分の複製を増やす(この状態を感染と言う!)

②アレルギー性疾患

概要:本来は、外部から入ってきた細菌やウィルスだけを攻撃すべき免疫が、間違って自分自身を攻撃してしまうことで生じる体調不良のこと。アレルギー性鼻炎、喘息、IgA腎症、コロナの肺炎でしばしば起きるサイトカインストームなど

効く薬:私の奥さんが大好きなステロイドステロイドには免疫を抑制する働きがある。なので、あまり使いすぎると、免疫が弱くなるという副作用がある。IgA腎症の治療でステロイドパルス(ステロイドの点滴&投薬)をやると、副作用として肺炎のリスクが上がるのはそのため。あたりまえだけど感染症にかかっているときに使うと危険。感染症と戦ってくれるはずの免疫を抑えてしまうから

そもそも免疫とは…自分の体と、細菌やウィルスと等の部外者とを判別して、部外者だけを攻撃し、排除するはずの仕組み。ただときどき判断をミスって自分の体も攻撃してしまう

 

結論

要は基本的には

細菌性感染症…抗生剤を使いましょう(ただし使いすぎには注意)

ウィルス性感染症…風邪薬等で症状を抑えつつ、免疫で頑張りましょう(抗生剤は効きません)

アレルギー性疾患…必要に応じてステロイドなどを使いましょう(ステロイド感染症に使わないように!)

という事です

ちょっと寄り道①-RNAワクチンについて

本筋とは関係ないですが、「そもそも細菌とは」「そもそもウィルスとは」のところに書いた、細菌はタンパク質を作る工場を持っているが、ウィルスは持っていないという話は、コロナ対策として出てきたRNAワクチンとも関係があります。

いままでワクチンというのは、わざわざインフルエンザならインフルエンザウィルスをダチョウの卵か何かに感染させて、ウィルスを増殖させ、その増殖したウィルスのタンパク質部分だけを集めて人に接種するというようなことをしていました。

つまり、タンパク質をわざわざ人の手で作っていた訳です。

一方でウィルスが増殖するのに、人の体の中にあるタンパク質を作る工場を使うことから分かるように、人体は設計図さえあればタンパク質をたくさん生産する能力は備わっています。

だから、ワクチンの設計図であるRNAだけ注射して、あとは体内でワクチンのタンパク質を作ってしまおう、というのがRNAワクチンの発想。

つまり、もともと外の世界にあったタンパク質の工場を、人体内に移してしまおうという発想なのです。

RNAを人体に注射しても、なかなかその工場まで辿り着くのが大変で、どうすれば辿り着くのかずっと研究していたわけですが、やっとポリエチレングリコールという物質を膜として使えば、工場まで設計図を送り届けることができそうなことが分かって、RNAワクチンが実用化されたわけです。(ポリエチレングリコールは女性用化粧品等に入っている物質で、女性の中には日ごろから接触している人もいるので、どちらかというと女性側にアレルギー反応が出ることが多いのです)

いままでいちいちタンパク質の生産をしていたのが、設計図だけ作って注射してしまえばいいので、すぐにワクチンを開発し、生産・出荷できるわけですね。

ちょっと寄り道②-薬剤耐性菌

細菌対策で使う抗生剤は、そのままお尻から流れ出て、下水を流れます。結果として、抗生剤の効かない細菌が生き残る=ダーウィンの進化論風に言うと細菌が抗生剤に耐性を持つように進化する、という問題があり、厚労省もむやみに抗生剤出さないように勧告してるはずです。

風邪のほとんどはウィルス性ですが、万が一のためや患者さんの安心のためにも、抗生剤を出すケースは多いと思います。

しかし実際はウィルス性の風邪には効かず、ただ自然界の細菌が薬剤耐性菌に進化するのを助けてしまっているだけなこともあるということです。

 

 

科学哲学とは/役に立たないのか?分かりやすく!

今日は科学哲学の話をしたいと思います。

グーグルで「科学哲学」と検索すると、予測キーワードで「科学哲学 役に立たない」と出てくるので、科学哲学は本当に役に立たないのか、という点も解説します。

目次

科学哲学とは

科学哲学とは分かりやすく言うと、次の二つを考える学問です。

科学とは何か

科学と非科学との間には線が引けるのか、違いはあるのか

ここで言う科学というのは、物理学や化学等の自然科学の事です。

自然科学的知識とそれ以外の知識、例えば社会科学や人文科学、個々人が持っている日常の知識・知恵は、自然科学的知識とどこか異なるのか。異なるのだとしたら、それを言語化して、自然科学とそれ以外の知識との間に線を引くことができるのか、という問題です。

20世紀初頭から議論が活発になり、「線を引ける」と言っている人と、「線は引けない」と言っている人たちの両方がいます。イメージで書くと以下のようになります。左側が、科学は特別なもので、非科学とは違うと言っている人たちの科学に対するイメージで、右側が、科学と非科学の間には線は引けない、結局のところ、科学も非科学も同じようなものだ、と主張している人たちの科学に対するイメージです。

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なぜこんなことを考え始めたのか/背景は

20世紀に科学哲学が議論され始めたのは、ニュートン力学相対性理論をはじめとした物理学に代表される自然科学の成功のノウハウを、人間の他の知的活動にもいかせないかと考えたからでした。

ニュートン力学などによって物理学は進化し、高い精度で自然現象の予測が可能になり、技術が発展し、社会を豊かにしました。(と少なくとも当時は考えられていました。)その自然科学はなぜそんなにも成功できたのかその「なぜ成功できたのか」という成功要因を解き明かすことで、社会科学や人文科学、そのほか一般の人間の知識を進化させられないか、と思ったわけです。

要は、自然科学をベンチマークに、知的活動のノウハウを研究しようとしたということです。

科学哲学の代表的議論の紹介

そろそろ本題に入ります。

今回は、科学哲学の議論として最も有名な二人の哲学者、イギリスのカール・ポパー(1902-1994)と、アメリカのトーマス・クーン(1922-1996)の議論を紹介したいと思います。

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カール・ポパー(画像:Wikipedia

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トーマス・クーン(画像:Wikipedia

この二人は年こそ離れていましたが、同じ科学哲学の分野で研究していたこともあって、論争を繰り広げ、その論争の内容が本としても残っています。

今回は、二人の議論の内容に加えて、二人の主張の違いについても触れてみたいと思います。

カール・ポパー

カール・ポパーは、科学と非科学との違いは、「反証可能性」にあると主張した哲学者です。

反証可能性というのは、自分が考えた理論に対する反証・反論が出てきた時、例えば実験などをして、自分の考えた理論と矛盾する結果が出てきた時に、その理論を捨て去るだけの素直さ、潔さがあるかどうかを意味します。理論を捨て去れることを「反証可能性がある」と言い反証例が出てきても理論を捨て去れないこと、もしくはそもそも反証するのが困難なことを「反証可能性が無い」と言います。

ポパーが指摘したのは、科学にはこの反証可能性があるが、非科学にはない、というものでした。

例えば、ニュートン力学万有引力の法則などすべてが厳密な数式で定義されており、その数式と異なる実験結果が出てきたら、ニュートン力学は正しくないことが明らかです。例えば、奇跡が起き、地球上の人間が浮くような事例があったら、それはニュートン力学に対する反証になります。つまり、ニュートン力学は反証可能であり、科学だということです。

一方で、例えば「幽霊は存在する」という考えは、いくら頑張っても、反証はできません。幽霊が存在することの証明ができないのと同じように、幽霊が存在しないことの証明もできないからです。つまり、この「幽霊は存在する」という考えは、反証可能ではなく、科学ではないということになります。

このように、反証可能性という観点から科学と非科学を分けようとしたのが、カール・ポパーでした。

トーマス・クーン

続いて、トーマス・クーンについてです。

トーマス・クーンは、パラダイムで有名です。

パラダイム論のあらましは以下になります。

  • 自然科学は、他の知的分野、例えば社会科学や人文科学などと異なり、基本的なことで論争にならない。例えば、経済学では、資本主義vs共産主義のような基本的な部分で対立構造があるが、物理学の分野で、ニュートン力学相対性理論に異を唱える対立勢力は存在しない
  • 自然科学の分野ではニュートン力学相対性理論のような、その分野の研究者全員から支持されている理論的枠組みがある。(この理論的枠組みのことをパラダイムと呼ぶ
  • 研究者たちは、このパラダイムを理論的前提として、研究を進めていく
  • しかし、研究を進めていくと、いずれはこのパラダイムとは矛盾する実験結果が出てくる。研究を続けていくと、この矛盾する実験結果はたくさん集まってくる
  • たくさん集まったこの矛盾する実験結果を、うまく説明できる新しい理論を考える
  • 新しい理論が、元のパラダイムよりも魅力的になると、研究者たちは元のパラダイムを捨て、新しい理論を前提に研究をするようになる。結果として、この新しい理論がパラダイムとなるパラダイムが入れ替わる=科学革命が起きる

トーマス・クーンの主著は「科学革命の構造」というもので、まさにここに書いた科学革命に至る一連の流れを論じたものです。

www.amazon.co.jp

トーマス・クーンは、このパラダイムと科学革命の存在こそが、科学の特徴であると主張したわけです。

ポパーとクーンの主張の違い

先ほども書いたように、ポパーとクーンは何度か会って議論しており、その議論内容が本としても残っています。

今回は、そういった書籍も参照しつつ、

  • 実行可能性
  • ホーリズム(英語で書くとHolism、全体論と訳されます物事を部分部分で考えるのではなく、全体で考えよう、という哲学上の立場です)

の二つの観点から二人の主張の違いに触れてみたいと思います。

実行可能性

ポパーとクーンの議論をまとめた『批判と知識の成長』という書籍があります。(批判と知識の成長 | 森 博, イムレ・ラカトシュ, アラン・マスグレーヴ |本 | 通販 | Amazon

この中で指摘されているのは、ポパーとクーンの言っていることは似ているが、ポパーは規律的な議論をしている科学においては反証を目指すべきであると主張している)のに対して、クーンは記述的な議論をしている科学においては、パラダイムに沿って研究が進み、反証例が積み重なると科学革命が起きると主張している)ということです。つまり、ポパーは、どうすべきかの議論をしているのに対して、クーンは、実際のところどうなっているかの議論をしているということです。

このことからわかるように、より実行可能性が高いのは、クーンのパラダイム論の考え方です。

ポパーの考えに沿って科学をしようとすると、自分で理論を考え、すぐにその反証を探し、また新たな理論を考え、、、という作業の繰り返しになります。つまり、自己否定する作業の繰り返しになりますし、場合によっては、よりどころとなる理論が一つもないという状況さえあり得てしまいます。

一方で、クーンの考えに沿えばとりあえずは自分の考えた理論の正しさを実験などによって確かめていき、もし反証例が出て、かつそれが溜まってきたら、新しい理論を作ればよいということになります。

後者の方が、実行可能性が高いというのは、想像がつくと思います。

ホーリズム

続いてはホーリズムです。

ポパーの考えは、理論に対して、一つでも反証があれば、すぐにその理論は捨てるべきである、というものです。反証一つでも意味を持つということです。

一方で、クーンの考えは、反証がたくさん溜まったら、次の理論を考え、その理論へと移行していくというものです。つまり、反証はいくつか必要で、反証一つ一つを重視するものではありません

このように、一つ一つの要素を重視するのか、理論全体で見たときの整合性を重視するのかが、ポパーとクーンは違います。後者のクーンのような考えを、哲学の世界ではホーリズムと呼ぶのです。つまり、部分部分よりも全体を重視するという考えです。

個人的には、人間の認識はどちらかというと、ホーリズムに近いのではないかと思いますし、だからこそ、前述の話とも関連しますが、クーンの考えの方が実行に移しやすいように思えるのでしょう。

ホーリズムについては、こちらの書籍を参照しました:クワイン (平凡社ライブラリー683) | 丹治 信春 | 哲学・思想 | Kindleストア | Amazon

論点の移り変わり

以上見てきたように、科学哲学とは、科学と非科学との間に線は引けるのか、を問うたものでした。そしてポパーとクーンを中心として、線は引けると主張されたわけですが、実は二人の主張には様々な欠陥も見つかっています。なので、今でも、「線は引ける」派と「線は引けない」派との間で、決着はついていない状況です。

そして、決着がつかない中、科学技術が発展し、社会への浸透の度合いが高まるにつれて、この「線は引けるか」問題は、政治の問題にもなってきています

ここでは、科学技術が社会に浸透するにつれて新たに出てきた以下の二つの論点を紹介したいと思います。

  • 科学的知識の政治的地位の問題
  • 科学と政治のスピードの問題

科学的知識の政治的地位の問題

科学と非科学とは異なるという立場の人たちからすれば、科学者の意見は政治的に非科学者の意見よりも重要なはずです。

一方で、科学と非科学との間に線は引けないと考える人たちからすれば、科学者の意見だけでなく、一般市民の話も聞くべきということになります。

つまり、前者はプラトン哲人政治に近い考え、後者は民主主義に近い考えを持っているわけです。(哲人政治・民主政治については、こちらのブログで解説しています:民主主義とは何か?問題点や課題は?わかりやすく! - はりねずみ教

プラトン以降ずっと繰り返されてきた哲人政治や民主政治と言った政治体制の是非を問う議論が、科学哲学とも関係しているわけです。

(この科学者の政治的地位についての議論は、こちらの書籍が詳しいです:Third Wave of Science Studies, The: Studies of Expertise and Experience (Cardiff University, School of Social Sciences, Working Papers S.): Collins, Harry, Evans, Robert: 9781872330662: Amazon.com: Books

科学と政治のスピードの問題

続いて、科学と政治のスピードの問題です。

まず、科学というのは、過去のクラシックな科学と現在実行中の科学とがあります。大切なのは、学校(小学校~高校をイメージしています)で習うのは前者のクラシック科学だけだということです。最近の科学など、少なくとも高校までは教えてもらえないことがほとんどです。

これの何が問題かというと、科学に対する誤ったイメージが、定着してしまうことです。クラシックな科学は、少なくとも数十年、ものによっては何世紀も前の成果で、十分に検証されたものだけが教科書に載っています

一方で、現在実行中の科学は、だいたいどれも仮説にすぎず、その仮説を検証している段階です。つまり、結論がまだ出ていないのです。

政治の世界は、意思決定が必要です。意思決定には、しばしば科学的知識が必要となります。しかし、上述したように、現在実行中の科学はすぐに結論を出せるわけではありません。「科学は、政治が求めるスピードで答えを出せるとは限らない」のです。(出所:法廷に立つ科学: 「法と科学」入門 | シーラ ジャサノフ, Jasanoff,Sheila, 千原, 渡辺, 貴之, 吉良 |本 | 通販 | Amazon

科学は、政治のためにスピーディーに答えを出せるとは限りませんその状況下でも、社会の意見をまとめて、意思決定していくのが、政治の役割だということです。

(クラシック科学と現在の科学との区分については、こちらの書籍を参照しています:科学が作られているとき―人類学的考察 | ブルーノ ラトゥール, Latour,Bruno, 勝, 川崎, 紀代志, 高田 |本 | 通販 | Amazon

科学哲学は役に立たないのか?

ここまで科学哲学の内容を見てきたら分かると思うのですが、自分は科学哲学は役に立つと思います。科学技術の社会への浸透度合いが高まっていく現代において、科学の性質を知ることは重要だからです。

例えば、

  • このFake Newsの時代に、科学的であるか否かを見極める重要性は高まっています。また、個々人を見るときも、反論を聞き入れる余裕があるか反証可能性があるか)は、人の信頼度を図るうえで指標となるでしょう
  • 政治の世界に目を向ければ、科学の性質を知ることで、政治的意思決定に誰が参加すべきか、科学技術と関連する政治的意思決定をするときに注意すべきことは何かが分かります

日本では3.11以降、特に原発に絡む意思決定が多く求められていますが、こういった科学技術に関連する意思決定をする際には、先ほど書いたように、「科学に答えが出せるとは限らない」という意識を持つことが重要です。科学に言えるのは「今後~~年で~~のようなリスクが~~%ある」ということだけで、「原発を再稼働すべき/すべきではない」という問題に対する答えは科学には出せません国民・政治が意思決定しないといけないのです。

まとめ

現代社会は、科学技術の社会への浸透度合いが高まっていく時代です。その時代に、「科学とは何か」という問題に迫ることで、科学技術に関連する意思決定の精度を上げることができます。

科学哲学とは、役に立つものなのです。

資本主義とは?共産主義とは?わかりやすく!

今回は、資本主義と共産主義について解説したいと思います。

最近は資本主義の問題がたくさん噴出しています。資本主義を全否定する気はありませんが、共産主義的考え方も検討の余地があるように思います。

目次

資本主義について

資本主義とは何か

資本とは商売の元手のことで、お金や生産設備などを指します。資本を各人で出し合う=共同出資などをして、会社を立ち上げ、その資本金を元手にビジネスを行っていくのが資本主義です。

誰が始めたのか

資本主義的な経済活動を始めたのは、キリスト教徒、そのなかでもカソリックではなくプロテスタントだったと言われています。

こちらの記事(ユダヤ教/イスラム教/キリスト教の関係と違いを分かりやすく! - はりねずみ教)でも書きましたが、プロテスタントの人たちは、天職=神から与えられた仕事を全うすることが、救済=最後の審判の時に天国に行くことにつながると考えていたため、与えられた仕事を全うする性質を持っていました。それが近代的な組織的資本主義を生むことになったのです。

この話、資本主義の起源がプロテスタントにあるということを明らかにしたのが、M・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神です。

資本主義に対する批判/共産主義とは

資本主義に対する批判は、主に次の3つであると考えます。

それぞれ説明していきたいと思います。また、一部の批判が共産主義へつながっていきますので、共産主義とは何かについても、同時に説明していきたいと思います。

格差拡大

まず格差拡大です。

資本主義により格差は拡大し、王政や貴族政の頃と同じように資本主義は階級闘争に陥ってしまうだろうと19世紀に見通していたのが、マルクスです。

その階級闘争の歴史から脱却するための方法としてマルクスが考えたのが、共産主義でした。

共産主義とは、一言で言えば、資本家(資本金を拠出し、株式等を持ち、会社を所有する人たち)を廃し、すべての資本を社会の共有物とし、資本家に権力を握らせることなく、労働者たちが主権を握るべき、という思想です。

連合赤軍ソビエト連邦、米国における赤狩りなどで、共産主義は印象が悪いかもしれませんが、もともとマルクスが考えていたことは、決して過激な思想ではなく、社会の平等を説いた経済思想だったのです。

21世紀に入ってから、トマ・ピケティというフランスの経済学者が『21世紀の資本』という書籍を発表し、その中で「歴史的に資本主義においては、資本収益率は経済成長率よりも高いため、格差は拡大する」と指摘しました。かみ砕いて言うと、

  • 過去にさかのぼってデータを調べてみると、資本主義経済においては資本家の収入の増加率が労働者のお給料の増加率よりも高いことが判明した
  • したがって資本主義経済においては格差は拡大するに決まっている

と明らかにしたということです。

資本主義においては格差が拡大するという19世紀のマルクスの予想は、21世紀にデータによって裏付けされたわけです。

環境破壊

続いては環境破壊です。

経済学の分野に、「外部性」という用語があります。「外部性」とは何かというと、社会的には問題になるようなことを、経済活動にしか気を配らない企業がしてしまうことです。企業の活動は社会に様々な影響を及ぼしますが、営利目的の企業からするとどうでもよいこと=企業の意識の「外部」にあることを「外部性」と言います。

この外部性の最もたる例が、公害や地球温暖化などの環境破壊です。

最近はずいぶん環境に配慮する企業が増えてきましたが、もともと資本主義は環境よりも金銭のやり取りにフォーカスを当てていましたから、企業にとっては環境は「外部」だったわけです。

現在大阪市立大学で准教授を務める斎藤幸平は、歴代最年少かつ日本人では初めてドイッチャー記念賞(マルクス研究界最高峰の賞)を受賞したのですが、その受賞作のタイトルが「Karl Marx's Ecosocialism(訳:カール・マルクスのエコ社会主義)」で、マルクスが実はエコな社会主義を構想していたのではないかと指摘したものでした。

斎藤幸平の指摘に沿えば、マルクスは資本主義の環境破壊という問題点も視野に入れたうえで社会主義共産主義を構想していたことになります。

ものすごい慧眼です。

ナショナリズム

いままで見てきた格差の拡大や環境破壊は、資本主義の問題点としてよく指摘されています。

しかし、自分はこのナショナリズムも、資本主義の大きな問題点だと思います。

ナショナリズムを資本主義と結びつけたのは、ベネディクト・アンダーソンです。彼は主著『想像の共同体』の中で、出版資本主義がナショナリズムを生み、ナショナリズムが戦争を生んだ、と指摘しています。

何が言いたいかと言うと、ナショナリズム=我々は日本人であるという感覚、彼らは中国人であり我々とは違うという感覚、Us and Them(我々と彼ら)というこの感覚は、出版資本主義によってもたらされる新聞や雑誌、書籍などによってあくまでもイメージとして形づくられたものに過ぎないということです。例えば、出版物に載っている「日本」の歴史や人口、地図などを見せられることで、人々は「日本」という国のイメージを形作っていくわけです。

ベネディクト・アンダーソンはこのように書いています。「国民はイメージとして心の中に想像されたものである/国民は限られたものとして、また主権的なものとして想像される/そして、現実には不平等と搾取があるにせよ、国民は常に水平的な深い同志愛として心に思い描かれる。そして、この限られた想像力の産物のために、過去二世紀にわたり、数千、数百万の人々が、殺し合い、あるいはみずからすすんで死んでいったのである

「現実には不平等と搾取がある」と指摘しているところに、マルクスの影響が見て取れます。実際、『想像の共同体』の中でベネディクト・アンダーソンは、何度もウォルター・ベンヤミンというユダヤ系のマルクス主義哲学者・芸術批評家に言及していて、影響を受けていることが伺えます。

このような、出版資本主義によってもたらされた「我々」のイメージのために戦争をするようになったのが、20世紀の大きな流れでした。

そして、その流れ、その悲劇が、21世紀も続いていることがよくわかるのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。

ウクライナは、「ウクライナには、NATOに加盟する自由・主権がある」と主張し、NATO加盟にこだわり続けたことから、NATOの東方拡大・軍備化を嫌ったロシアによる侵攻を招いてしまいました

この、「ウクライナのことはウクライナが決める」「隣国のロシアの言うことなど聞く必要はない」という主張は、内向きなナショナリズムです。騒音などで隣人から苦情が来ようと、「我が家で何しようと勝手だ」と言うようなものです。

このウクライナの内向きナショナリズムは、トランプ大統領の「国際社会の言うことなど聞かない」「自国民の意見が第一」というアメリカ・ファーストと正直同じレベルの内向きナショナリズムだと思います。トランプの内向きナショナリズムの影響は政治や経済活動にしか影響を及ぼさなかった一方で、ウクライナの内向きナショナリズムが戦争を招いたことを考えると、むしろ後者の方がより過激だとさえ自分は言えると思います。

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トランプ大統領の内向きナショナリズム=America First
(出所:アメリカファーストの極み

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ウクライナの内向きナショナリズム=「ウクライナにはNATO加盟の権利がある」

このように、資本主義はナショナリズムを生み、ナショナリズムは戦争を生むのです。強烈な資本主義批判だと思います。

資本主義vs共産主義

続いて、資本主義vs共産主義、特に冷戦期の米国とソビエトの関係についてみていきたいと思います。

共産主義ソビエトが崩壊した一方で、資本主義のアメリカは残存しており、共産主義の敗北・資本主義の勝利は決まった、というような意見を目にしたことがあると思います。

しかし、それはあまりに短絡的な結論です。

まず、ソビエトが崩壊したのは、共産主義に問題があったからではありませんソビエトは、ソビエト連邦の名の通り連邦で、複数の共和国が連邦下に入っていたのですが、その各共和国に対して権限委譲して地方分権を進めるのか、もしくはソビエトの権力を強化して中央集権を進めるのか、そのどちらが望ましいかで各共和国の意見が分かれたことが発端となって崩壊したのです。

共産主義の失敗が原因で崩壊したわけではないということです。

また、仮に共産主義が原因で崩壊したのだと仮定しても、それが共産主義という理念に問題があったのか、共産主義という理念の実行に失敗したのかは、分けて考える必要があると思います。

要は、ソビエトが崩壊したからといって、共産主義の敗北が決まったというのは、あまりに早計だということです。 

共産主義的アプローチの価値を見直すべき

ここまで読んで頂ければ分かると思いますが、自分は共産主義的アプローチの価値を見直すべきだと思います。

資本主義には、格差拡大、環境破壊、ナショナリズムとそこから生じる戦争という3つの大きな問題がありますが、そのどれについても、共産主義的立場から考えることはヒントになるはずです。

また、20世紀、ドイツやフランスで起こった西洋哲学批判の流れは、やはりその源流にマルクス(やフロイトがいました。(ドイツはフランクフルト学派、フランスはフランス現代思想のことです。)なぜ理性の国ドイツで、ホロコーストのような暴力が起きたのか、なぜ我々は自由になれないのか、といった問題を、マルクス等を参照しながら考え、西洋哲学批判に至ったのです。

今の社会は、経済活動にしても、政治活動にしても、哲学・思想にしても、アメリカにかなり寄ってきています。(経済活動は資本主義、政治活動は民主主義、哲学・思想はアメリカの哲学と言われるプラグマティズムが、世界的にも主流になりつつあるということです)

このような流れで本当に良いのか、格差拡大や環境破壊、戦争などの問題が起きている中で、改めて、共産主義の視座を含めて、考え直しても良いと思います。

民主主義とは何か?問題点や課題は?わかりやすく!

最近ロシアがウクライナに侵攻していますが、良くこのウクライナ侵攻に関して、西側の民主主義諸国から聞こえてくるのが、「自由と民主主義のための闘いだ!」という声です。

この「自由と民主主義のための闘いだ!」という声には、民主主義こそが素晴らしい政治制度で、他の政治制度は良くないものだ、という前提が見え隠れします

今日は、民主主義に関連して、本当に民主主義は良いものなのか民主主義肯定派否定派の見解を解説したいと思います。

目次

民主主義肯定派

民主主義肯定派で最もたる人物といえば、自分はフランシス・フクヤマが思い浮かびます。

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フランシス・フクヤマ。米国の日系アメリカ人で政治学者。画像はWikipediaより

このフランシス・フクヤマが、1992年に「歴史の終わり」という本を書いています。

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この「歴史の終わり」の中で言っていることが、なかなか大胆です。

曰く、歴史上、様々な政治制度が存在したが、政治制度をめぐる世界の歴史は、民主主義の勝利によって終わると主張したのです。

自分なりに少しかみ砕くと、ソビエト崩壊によって民主主義陣営の勝利が濃厚になってきたため、民主主義以上に優れた政治制度は存在せず、これ以上、政治制度の進化は起きない、と主張したということかと思います。

つまり、民主主義の勝利こそが、世界史という名の映画のエンドロールであり、世界史という名の小説の最終ページだという意味で、「歴史の終わり」だと言ったということでしょう。

これから見ていく民主主義否定派の意見を考慮すると、本当に民主主義の勝利が「歴史の終わり」なのか、疑問の余地があるような気もします。

民主主義否定派

民主主義否定派としては、プラトン科学哲学の世界の専門家主義者たち三島由紀夫の3名もしくはグループを紹介したいと思います。

プラトン

民主主義否定派として恐らく最も有名なのが古代ギリシャの哲学者プラトンでしょう。

プラトンの民主主義に関する要旨は以下になります。

  • 人間の徳は3つ。知恵、勇気、節制である
  • それぞれ、知恵は哲学者、勇気は軍人、節制は民衆が持っている、もしくは持つべきものである
  • 政治は、知恵のある哲学者が行うべきであり、戦争は、勇気のある軍人が行うべきであり、民衆は節度を持ってその国で暮らすべきである
  • 民主政治というのは、本来は節度を持っているべき民衆が政治に参加することであり、知恵のある哲学者が政治を行ういわゆる哲人政治よりも劣った政治形態である

つまり、プラトンは哲学者が政治を行う哲人政治こそが望ましいと考え、民主政治はそれに劣るものだとしていたわけです。

なお、プラトンの時代の哲学者というのは、現代で言うところの有識者や学者といった意味合いです。

現代でも、ポピュリズム等民主主義の問題点が指摘されていますが、言われてみれば、多数決で決まったことが、正しいと言える根拠などありません

多数決をするよりも、知恵のある人物に政治を任せた方がよい、という考えは、現代においてもまだ検討する価値のあるものだと感じます。

科学哲学の世界の専門家主義者たち

科学哲学の世界では、「科学的知識は他の日常的・一般的知識とは異なる特別なものなのか」という点が昔から議論されているのですが、その問いかけに対して「科学的知識は特別なものであり、政治は市民参加よりも、科学者による参加の方が重要であると主張する専門家主義者がいます。

科学者や専門家が政治を執り行うことが重要だと主張しているわけです。

これは、先のプラトン哲人政治に近い考え方だと思います。

三島由紀夫

三島由紀夫というと、自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた頭のおかしい文豪というようなイメージが付きまといがちですが、死の数カ月前に産経新聞に『果し得ていない約束』という文章を残していて、戦後民主主義に触れ、日本の将来を高い精度で予想しています

以下、一部引用です。(出所:三島由紀夫の「からっぽな経済大国」論 - tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

「二十五年前に私が憎んだものは、多少形を変えはしたが、今もあいかわらずしぶとく生き永らえている。生き永らえているどころか、おどろくべき繁殖力で日本中に完全に浸透してしまった。それは戦後民主主義とそこから生ずる偽善というおそるべきバチルス(つきまとって害するもの)である」

※書かれたのが1970年ですので、25年前というのは、終戦の年です。また、バチルスというのは、ウィルスのことです

「私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである」

つまり、ここで言っているのは、戦後に米国から強制的に輸入された民主主義というものが、日本に巣くっていき、経済偏重になり、日本の文化が消え去っていくことへの危機感です。

この民主主義批判、米国追随批判を形にできるのは自衛隊だと三島由紀夫は考えていました。だから、市ヶ谷駐屯地に行って、自衛隊員たちに演説をしたのです。

市ヶ谷駐屯地で三島由紀夫の話を聞いた者はほとんどいなかったとよく言われますが、三島由紀夫の懸念、日本が「或る経済的大国」になってしまうという懸念は、恐ろしいほどに的中しているように思います。

肯定か否定かよくわからない人(おまけ)

第2次世界大戦時にイギリスの首相を務めたチャーチルは、「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外のすべての政治体制を除けばだが」と言っていたそうです。(出所:https://kadobun.jp/trial/851.html

自分は、このチャーチルの発言は、民主主義は今までの政治体制と比べたら良いが、それでもまだまだ悪いところはある、という意味で解釈しています。

まとめ

現代社会においては、民主政治があたかも最良の政治体制であり、これ以外の政治体制は低レベルだとでも言うような風潮がある気がします。

しかし、見てきたように、西洋哲学の祖と言われているプラトンは民主主義よりも哲人政治の方がよいと言っていましたし、三島由紀夫は、日本文化の衰退という視点から、戦後民主主義を批判していました

もちろん民主主義にもたくさんのいい面はあると思うのですが、それを絶対視しないでほしい、というのが自分の思いです。

勉強のコツ

今回は、勉強のコツを説明したいと思います。

勉強で重要なのは、昔から言うように、読み・書き・算盤です。

それぞれの項目について、解説したいと思います。

目次

読み

読みについては、何よりもまずこちらの本、『How to Read a Book』を読むべきです。

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『本を読む本』というタイトルで、日本語訳も出ていますが、訳がこなれていない上に、英語版が比較的簡単な英語で書かれているので、英語版で読むことをお薦めします。ご丁寧に、重要な箇所はすべて書体がイタリックになっていて協調されていますので、見出しとイタリックの部分に目を通すだけでも、ある程度内容は把握できると思います。

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言っていることは極単純です。

本を読むときは、最初の1ページ目から最後のページまで順番に読んでいくべきではなく、いかに早く内容を読み取れるかが重要である、ということです。(小説などは除き、ここでは、学術書を想定しています。

概要から、まとめから、結論から読むべきなのです。

前書きや序文、まとめの書いてありそうな章、章の最後のほう(だいたいその章の内容のまとめが載っています)、翻訳書であれば訳者あとがきや解説から読むべきだということです。

まず概要を把握してから細かく読んでいくことで、順番に読むよりも効率よく理解を深めていくことができます。もしくはその本は読まないと判断して別の本を読むということも可能です。

つまり、律儀に最初から読むのではなく、重要なところから読んでいくことが重要であり、効率の良い読書につながるということです。

書き

書きについては、『The Pyramid Principle』を読むと良いです。

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考える技術・書く技術』というタイトルで、日本語訳も出ています。

先ほどの「読み」のパートとは違い、こちらは日本語訳でもよいと思います。

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言っていることは何かと言うと、ピラミッド構造で話を整理するのが重要だということです。

詳しくは読んで頂ければと思いますが、

  • 上下関係:上が結論、下が根拠
  • 左右関係:項目に漏れが無いか、ダブりが無いか

という点に注意しつつ、話の内容をピラミッド状に整理していく方法が、本書で解説されています。

こちらの図が分かりやすいですね。(出所:2/2 ピラミッド原則!図にすると、上手く話せる [起業・会社設立のノウハウ] All About

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Pyramid Principle=ピラミッド原則のイメージ

このピラミッド原則は、書くことだけでなく、考えること、話すことにも使えます

アウトプットする際には、この構造で整理しておくのが、おすすめです

算盤

算盤というのは、計算系科目全般で必要とされる数学的なセンスをイメージして書いています。

算盤は、参考文献はありません。

なぜなら、スポーツと同じように、練習あるのみで、体で覚えるものだからです。

自分は子供のころ、塾で筆算の問題を毎日何十問と解いていました

それが体に染みついているせいか、今もTVの音量調整をしているときなど、数字が目に入ると、無意識にその数字を素因数分解して、素数かどうか考えたりしています。

何が言いたいかというと、計算系科目においては、そのぐらいまで数学的思考を体に慣らさせるのが大切だということです。

とにかく問題を解きまくってください

答えがある程度想像がついても、手を動かして解くのが大事です。

まとめ

以上、読み、書き、算盤のコツでした。

勉強というのは、コツさえつかんで、できるようになれば、面白いものです。

読者のあなたが、学問という限界の無い世界を自由に楽しく羽ばたけるようになることを願っています

アメリカがどれほどひどい国か、わかりやすく解説!

世界にはいろいろな国があり、それぞれの国には良いところも悪いところもあります。

ただ、個人的には、日本はアメリカに占領されたためか、アメリカの悪いところはなかなかメディアが報じていない印象です。

今回は、アメリカの悪い部分、ひどい部分を分かりやすくまとめておこうと思います。

(もちろんアメリカにもいい部分はありますが)

目次

嘘や誤情報によるプロパガンダ

ウクライナ侵攻を受けて、ロシアのプロパガンダが批判されていますが、個人的には世界一のプロパガンダ大国はアメリだと思います。

はっきりと嘘もしくは誤情報だったことが判明しているプロパガンダの代表例

の二つです。

トンキン湾事件

トンキン湾事件というのは、アメリカ側が「北ベトナムトンキン湾で、米国戦艦が北ベトナム側から魚雷攻撃を受けた」と主張し、ベトナム戦争介入の口実とした事件です。

これはアメリカ側の捏造だったことが判明しています。おそらく、ソビエトの支援する北ベトナムを攻撃し封じ込めたかったアメリカが、正当な参戦の根拠がなかったために、でっちあげたのでしょう。

大量破壊兵器

大量破壊兵器というのは、9.11テロの後に、当時のブッシュ大統領が「イラクには大量破壊兵器があり、世界平和を脅かそうとしている」と主張し、イラク侵攻の根拠としたものです。以下は当時のTV映像の切り抜きです。

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イラクには大量破壊兵器があると主張する当時のブッシュ大統領

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国連の場で、イラク大量破壊兵器の脅威について訴える当時のパウエル国務長官

(画像の出所:http://eikojuku.seesaa.net/article/225831630.html
この発言から数年後、ブッシュ政権は、「大量破壊兵器は無かった」とあっけからんと説明します。いったい何を根拠に大量破壊兵器のことを話していたのでしょうか

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大量破壊兵器は無かった」と認める当時のブッシュ大統領

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大量破壊兵器は無かった」と認める当時のラムズフェルド国防長官

Wikipediaによると、民間人含め、ベトナム戦争では推定600万人、イラク戦争では推定で最大60万人の死者が出たといわれています嘘もしくは誤情報によって始めた戦争で、これほど多くの命を葬り、それでも国際社会で堂々としていられる感覚が、自分には理解できません

ジャイアンのようにやりたい放題

アメリカは、第二次世界大戦・太平洋戦争の勝者だとはいえ、あまりにも世界でやりたい放題の振る舞いをしていると思います。ジャイアンのようです。

ここでは、湾岸戦争と日米半導体協定の二つの話をしたいと思います。

湾岸戦争

まず湾岸戦争ですが、一般的には、イラククウェートに侵攻し、それに対してクウェートを守るために、米国が参戦した、という認識が強いと思います。ですが、重要なのは、なぜイラククウェートに侵攻したかです。

経緯をたどると以下のようになります。

  • 米国が冷戦期のソビエトとの軍拡競争により、財政難に陥る
  • 財政難回避のために、中東の石油利権が欲しい
  • イラン革命により、イランにおける親米政権が倒され、反米政権ができてしまった
  • 中東の石油利権確保のためにはイランが邪魔
  • イランを倒すために、隣国のイラクを支援し戦争する(しかし、うまくいかず)
  • 勝てなかったイラクに借金(対イラン戦争時の支援金)取り立て
  • 借金を払えないイラクが、石油利権拡大のためにクウェートに侵攻

いかがでしょうか。つまり、もともとは、アメリカが中東の石油利権が欲しいがために、中東諸国の政治・経済を引っ掻き回したのが原因なのです。

湾岸戦争の原因を作ったのは米国だということです。

日米半導体協定

もう一つ、日米半導体協定についてです。

日米半導体協定というのは、1986年から1996年にかけて、アメリカの半導体業界が日本の半導体業界に対して

  1. 日本市場における外国製半導体のシェア拡大
  2. 公正販売価格による日本製半導体の価格固定

という二つの制約を課した協定です。

背景を説明すると、半導体は米国で開発されたものではありますが、日本は1970年代に官民共同で始めた半導体開発PJ(”超LSI技術研究組合”と呼ばれるもの)がうまくいき半導体業界でのシェアを高めていましたそれがアメリカ側は気に食わず、日本に対して、「アメリカ製の半導体を買え」と言い、(日本の半導体のシェアが下がるように)「日本は半導体を安く売るな」と命じたということです。

この日米半導体協定の日本側交渉団の代表を務めた元日立製作所専務の牧本氏は、この協定により日本の半導体産業が衰退し、半導体産業が衰退したことにより、日本のエレクトロニクス産業全体が大きなダメージを負ったと指摘しています。(出所:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65263770R21C20A0000000/

日本の産業界衰退の原因の一つにも、アメリカが大きく関わっていたということです。

このように、自らの希望を叶えるためであれば、アメリカは手段を選びません。

ウクライナ侵攻関連のアメリカ批判

アメリカ批判のなかでも、ウクライナ侵攻に関連するものはこちらにまとめたいと思います。

NATOの東方拡大がロシアによるウクライナ侵攻を招いた

ロシアのプーチン大統領は、NATOの東方拡大と軍事化に関連して、「ロシアの庭先にミサイルを置くなと言っているのに、なぜ理解できないのだ?」と批判していました。NATOの東方拡大が、ロシアによるウクライナ侵攻の原因になったわけです。

フィナンシャルタイムズの副編集長であるマーティン・ウルフも、NATOの東方拡大がロシアのウクライナ侵攻を招いたことを認めています。(出所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB211GV0R20C22A3000000/

ピュリッツァー賞を三度受賞しているニューヨークタイムズのジャーナリスト、トーマス・フリードマンも、駐モスクワ米国大使を務めたジョージ・ケナンの発言を引用しつつ、NATOの東方拡大がロシアによるウクライナ侵攻の原因になったと認めています。また、NATOが東方に拡大し続けたのは、米国の上院議員が、「ロシアは西側諸国を攻撃するに違いない」という根拠のない恐怖・妄想に取りつかれていたからだと指摘しています。(出所:https://www.nytimes.com/2022/02/21/opinion/putin-ukraine-nato.html?referrer=masthead

米国で国務長官を務め、ノーベル平和賞を受賞したキッシンジャーも、現在のウクライナがある地域は、ロシアの起源であるキエフ大公国があった場所であり、ウクライナはロシアにとって特別な国であることに留意すべきであると指摘しています。(出所:https://courrier.jp/news/archives/280782/

日本だと、外務省の情報局長を務めた孫崎享さんが、上記3名と同様の発言をされています。

このように、NATO東方拡大は東西の緊張を高めると警告されてきたにも関わらず、米国は、NATO加盟への道はすべての国に開かれている」という原則論に固執し、ロシアによるウクライナ侵攻を招いてしまったわけです。

ジョージ・ケナンによれば、ロシアはソビエト崩壊後、資本主義・民主主義化を進め、西側諸国と友好的な関係を築こうとしていたといいます。にもかかわらずアメリカは、ロシアへの根拠のない恐怖感からNATO東方拡大と軍事化を進め、対立を煽ってしまったということです。

また、自分はそのNATO東方拡大の方法にも問題があったと思います。

問題1:一方的な弾道弾迎撃ミサイル制限条約脱退

まず米国は、米国とロシアの間で軍事的緊張が高まらないようにミサイルの設置に制限をかけた条約「弾道弾迎撃ミサイル制限条約」を一方的に脱退し、NATOの軍備化を進めました

約束を破ってまでヨーロッパのNATO加盟国でミサイル設置を進めてきたわけです。

問題2:ウクライナ憲法に「NATO加盟努力義務」を明記させる

オバマ政権時代、副大統領だったバイデンは、ウクライナをして憲法に「ウクライナの大統領はNATO加盟への努力義務を負う」と明記させました。(出所:バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛(遠藤誉) - 個人 - Yahoo!ニュース

当時から、バイデンは、ウクライナを西側のものにしたくて仕方がなかったようです。

キッシンジャーが言うように、ウクライナの首都キエフは、キエフ大公国といって、現在のロシアやウクライナの起源にあたる国があった地域であるのにも関わらずです。日本人の感覚で言えば、出雲を他国に乗っ取られるようなものでしょう。)

問題3:ウクライナの脱ロシア産天然ガス政策

バイデンの息子であるハンター・バイデンは、ウクライナ最大の天然ガス企業ブリスマ・ホールディングスで、2014年~2019年に役員を務めていました。そして、まさにその息子の役員就任期間中である2014年~2015年を境に、ウクライナはロシアから天然ガスの輸入をほとんどやめています。(グラフの出所:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59029

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ウクライナ天然ガス輸入先(単位:億立方m)

ウクライナは、従来化石燃料の輸入でロシアと経済的な結びつきの強い国でした。これは憶測でしかありませんが、バイデン一家としては、まずはその経済的つながりを断ち切ることで、ウクライナを東側から分離させようとしたのかもしれません。

化石燃料産業/軍需産業の利権

こちらも憶測でしかありませんが、化石燃料産業や軍需産業の利権のために、アメリカはウクライナ対ロシアの戦争を望んでいた可能性もあります。

武器を送ることで、アメリカ人たちは安全を確保しながら、軍需産業は軍需品の売り上げを伸ばすことができます

また、ロシアを国際経済から締め出すことで、化石燃料の代替調達先として米国が浮上し化石燃料の販売がしやすくなるうえに、化石燃料の価格が高騰して、利益をあげやすくなります

もし本当に化石燃料産業/軍需産業利権のために戦争を仕組んだのだとすれば、本当に恐ろしいことです。

ウクライナNATO非加盟国なので派兵しない」というお粗末な言い訳

米国は、ウクライナに派兵しない理由として、ウクライナNATO非加盟国であることをあげています。しかし、米国は、NATOに加盟していないどころか、何の条約も結んでいない国に軍隊を派遣してきた歴史がいくつもあります。例えば

上記戦争または紛争においては、NATOへの加盟どころか、条約さえ結んでいない国のために、アメリカは兵士を派遣したり、空爆を行ったりしています。つまり、ウクライナNATOに加盟していないことは、派兵しない理由としては説得力を欠くわけです。

第3次世界大戦になってしまうというのが、ウクライナに派兵しない本当の理由でしょう。

適当な言い訳はするべきではないと思います。

燃料気化爆弾の使用

ロシアによるウクライナ侵攻では、ロシアがウクライナに対して、「燃料気化爆弾」を使用したとして、国際法違反であると西側諸国は非難しました

しかし、燃料気化爆弾を初めて使用したのはベトナム戦争での米軍ですし、続く湾岸戦争イラク戦争でも使用されたといわれています。(出所:http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Iraq/daisy_cutter_in_kut_apl2.htm

アメリカは燃料気化爆弾を使用する一方で、ロシアが使うと「国際法違反だ」と言って非難される状況は、もはや意味不明です。

経済制裁は対立を煽るだけでは

米国コーネル大学のニコラス・マドラー助教授が『The Economic Weapon: The Rise of Sanctions as a Tool of Modern War(日本語訳…経済兵器:近代戦争の道具としての制裁の台頭)』という本を出しており、その中で、「経済制裁によって戦争を抑止(軍事的撤退)できたのは1921年のユーゴとアルバニア、1925年のギリシャブルガリアの国境紛争、それにスエズ紛争の際のイギリスに対してものしかない」と指摘しているそうです。つまり、経済制裁によって戦争が回避されたという例など、歴史を遡っても3つしかないわけです。(出所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD031290T00C22A3000000/https://www.amazon.co.jp/dp/B09MJ9RTQG/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

また、思い返せばわかるように、日本が太平洋戦争に突き進んだのは、アメリカ等から石油などの禁輸を受け経済的に追い込まれたことが(少なくともアメリカなどに対して日本が強硬的姿勢をとることになった)原因の一つと言われています

また、ドイツにおいてヒトラー政権が誕生したのは、第一次世界大戦に敗北したドイツに対して、アメリカ等戦勝国天文学的な額の賠償金を課し、ドイツにおいてハイパーインフレを招いたことが原因の一つであると言われています。

今回のウクライナ侵攻に関しても、中国の華春瑩報道官が「米国による対ロシア制裁は2011年から数えて100回を超えている」が、「米国の制裁は問題を1つでも解決したのかこうした制裁のおかげで世界は好転したのかウクライナ問題は米国の対ロシア制裁が奏功して解決するのか欧州の安全保障は、米国の対ロシア制裁で保証されるのか」と問いかけています。(出所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB281660Y2A220C2000000

何が言いたいかというと、敵国に対して経済的に圧力をかけることは、本当に戦争を終わらせることに繋がるのか、むしろ悪化させることの方が多いのではないかということです。

今回のウクライナ侵攻に関しても、経済制裁によってロシアの経済的体力にはダメージがあるのかもしれませんが、戦争に対する姿勢を強硬化させないか、心配です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はアメリカの特に悪い面にスポットライトを当てましたが、アメリカは、

  • 嘘や軍事力、経済的圧力、条約の破棄、政治工作等さまざまな手段を駆使して、自らの望みを叶えていく
  • 一方で、上記のような手段を敵対国がとると(往々にして他の西側諸国と一緒に)非難する

という、まるでジャイアンのようなやりたい放題の国だということです。

日本の世論を含め、もう少しフェアな見方が広がって欲しいと願っています。